年末の台湾立法議会選挙に注目

 

2004年3月20日に行われた台湾総統選挙は僅差で陳水扁が再選した。陳水扁が当選するか、連戦が当選するかでその後の台湾政策は大きく変わる。必然的に東アジアに大きな影響を及ぼす。とりあえず陳水扁の当選によってアジアは平和へと突き進むこととなった。しかし状況はそう簡単ではない。まだまだ非常に多くの困難を抱えている。
中国国民党が台湾を占領して以来半世紀以上が過ぎたが、今まで台湾では行政、立法、司法、軍、教育、マスコミ、芸能にいたるまであらゆる分野で国民党が牛耳ってきた。行政の分野では西暦二千年に民進党の陳水扁が当選することによって台湾本土派の手中に入ったが、立法では中国派が過半数を握り、教育やマスコミでも中国派が優勢である。特に重要なのは立法、つまり国会である。
 台湾の国会ではいまだに中国派政党が過半数を握っている。この国会に陳水扁政権はずいぶん苦しめられてきた。野党が過半数を握っているのだから、なかなか法案が通らない。マスコミも中国派が優勢だから陳総統をぼろくそなまでに批判する。こうして陳政権第一期の4年間、台湾本土化への改革は思うように進まなかった。台湾本土化の改革を進めるためには国権の最高機関である国会で過半数を握ることがなんとしても必要である。 
その国会議員選挙は今年(2004年)12月に行われる。3年前の立法議会(国会)選挙では台湾本土派の民進党と台湾団結連盟が躍進し、中国派の中国国民党は議席を半減させ、親民党は議席を増やした。合計では台湾本土派が議席を増やし、台湾国民の間の台湾意識の強まりがはっきりしたものの、過半数には届いていない。


参考資料:98年、01年の立法議会選挙のおける政党別獲得議席数

98年
01年
民主進歩党
70
87
台湾団結連盟
13
中国国民党
123
67
親民党
46
中国新党
11
1
無所属・その他
21
13
225
227

98年の獲得議席数と01年の選挙前議席数が一致するわけではない。01年の選挙前議席数は親民党20、台湾団結連盟1

 

国民党の連戦主席は総統選挙で連敗し、人気は急落している。90年代は李登輝人気に支えられている部分もあったが、現在の国民党は人脈や利益誘導によって票を獲得するのが精一杯、しかしかつては世界一の金持ち政党と言われた国民党の財力もかげりが見える。90年代以来国民党は一貫して退潮傾向にあり、今後もこの傾向が続くことは間違いない。ただし、意外に検討する可能性もある。もう一つの中国派政党である親民党は、中国新党が存亡の危機を迎える今、中国派政党の最左翼である。外省人を中心とする中国派からの支持を得ているが、台湾意識が強まっている今、議席を増やすのは困難な情勢である。しかも3月の総統選挙終了直後に過激な反政府暴動を行ったことからイメージが急落、7月の高雄市議会補欠選挙では立候補者4人が全滅すると言う惨敗を喫した。12月の立法議会選挙では親民党が急落し、中国派の票が国民党に流れ国民党は議席を減らすとしても微減にとどまる可能性もありうる。7月の高雄市議会補欠選挙ではそのような傾向が見られた。中国派政党は合計で前回よりも1議席増やすことを目標としており、なんとも消極的な目標であるが、この消極的な目標さえも達成不可能であろう。中国新党は1議席を確保するのがやっとであろう。全滅という可能性も高い。
民進党はすでに立法議会で第一党となっている。しかし過半数を獲得していない。12月の選挙では87議席から100議席へと増やすことを目標としている。一方もう一つの台湾本土派政党である台湾団結連盟は13議席から20議席へ増やすことが目標だ。両党あわせて120議席を獲得し、合計で過半数を確保するのが目標である。両党あわせて114議席を超えれば過半数確保となる。台湾団結連盟にとっては、2007年の立法議会選挙からそれまでの大選挙区制から小選挙区制となり、小政党である同党にとっては不利となる可能性が高いので、できるだけ得票率を伸ばし、いまのうちから支持率を高めたいところであろう。
今度の立法議会選挙で本土派が議席を伸ばすのは確実だが、どこまで伸ばすかはなかなか読めない。3月に行われた総統選挙を見てみよう。本土派の陳水扁候補は50.114%の得票率、中国派の連戦候補は49.886%の得票率。両者にほとんど差はない。意外なことだが、台湾における台湾意識は日本における台湾意識よりも低い。日本人の多くは台湾と中国は別だと思っている。事情を良く知らない無関心な人も、野球で台湾代表が活躍していたり、旅行ガイドでは台湾と中国が別々になっていることからなんとなく台湾と中国は別だと思っている人が多いに違いない。もし日本人に陳水扁と連戦を選ばせたら圧倒的多数で陳水扁を選ぶのではなかろうか。しかし台湾では半分の人が連戦を選んでいる。国民党のメディアや町内会や企業などを総動員した組織力や、賄賂のばら撒きによる票集めも大きな力になっているだろうから連戦に投票した人がみな統一を望んでいるとはいえないと思うが、さらに重要な要素としては台湾人の中に台湾を台湾と思っていない人、台湾を中国だと思っている人が少なくないことも原因であろう。台湾人は子供のときから一貫して台湾は中国の一部分であるという教育を受けている。この教育の影響力はばかにできない。また、アイデンティティーを見失っている人、国家を否定し、地球市民でありたいなどとサヨク日本人みたいな考えを持つ人もいる。総統選挙で民進党が苦戦を強いられたのはやはり長年の教育の影響が非常に大きい。
3月の総統選挙の結果をどのように見ればいいのだろうか。半数もの人が陳水扁に投票しなかったことを挙げて、台湾の台湾意識はまだまだだと考えるか、それとも立法、メディア、教育などが中国派によって牛耳られえいることを挙げて、今回陳水扁が過半数の得票を得たことを大きな成果と捉えるか。どちらの解釈も可能である。しかし確実にいえることは台湾本土派の選挙における得票率は年々確実に増え続けていることである。ゆっくりとだが台湾人の台湾意識は確実に高まっている。今後もこの勢いは止まらないであろう。
台湾本土派の道のりは今後も厳しい。現在重要課題となっている正名運動にしても、やるべきことがあまりにも多い。空港、道路、政府機関、銀行、学校、民国年号、地方行政、企業名、博物館などなど、中国的な名前が非常に多い。教育も中国志向の教育が行われている。これらを改革したくても国会の過半数が中国派によって握られていてはどうしようもない。12月の立法議会選挙で本土が過半数を獲得できた場合、台湾史上はじめて台湾本土派政党が国会で過半数を握ることになる。そうすれば改革も今まで以上に進むようになるであろう。本土派政党にとって過半数獲得は絶対に落とせない最低限の目標である。
国会で過半数を獲得したからといって全てが順調に進むわけではない。陳水扁政権は2006年に新憲法を制定し、2008年に施行する計画をたてている。だが陳総統は今年5月の就任演説において、国民のコンセンサスがまとまっていないことを理由に国名は変更しないと宣言した。これに対し、本土派の議員や言論人は陳総統に失望し、激しく非難したが、今のところ、国名変更に賛成する人は少なく見積もった場合、半分しかいないことになる。あとの半分は反対か、どうでも言いと思っているかのどちらかである。国名変更という国家そのもののあり方を変えてしまう事柄を、たった半分の賛成で成り立たせることは不可能であろう。そのためにはあとわずか2年で国民のコンセンサスを圧倒的多数にまでまとめる必要があるが、時間が短すぎて難しい。国会と世論の過半数をちょっと超えた程度で国名変更などを行おうとしたら、中国派による暴動が巻き起こされ、多数の負傷者が出ることも予想される。
どちらにしろ、今度の立法議会選挙が台湾本土化への重要なステップとなることは間違いない。ちょっと考えてみよう。台湾は今その歴史上非常に重要な時期にあるといえないであろうか。わが国日本も近代に入って明治維新と敗戦と言う二度の大きな革命的変化を経験している。明治維新によって江戸幕府による政権が崩壊し、近代的な政府が樹立された。その後、近代的な軍備、近代的な教育、近代的なインフラ設備、近代的な金融制度、国会の設立など、めまぐるしい勢いで改革が行われた。今の日本ではしきりに改革とか変革などと言われているが、私が覚えている限り80年代後半からずっと言い続けていることで変化は非常に少ない。今の日本では憲法改正など重要な課題が山積みだが、少なくとも明治維新や戦後のときほど国家体制を根本的に帰る必要があるとは思えない。
それに比べて台湾はどうだろうか。今台湾は国家体制の面でも、国民意識の面でも「中華民国」から「台湾」へと移行していく真っ最中である。まさに大きな革命的変化の真っ只中、激動の時代を生きているのである。世界の多くの国々がその歴史において激動の歴史を経験してきた。シンガポールは50年代後半から60年代半ばにかけて、イギリスの直轄植民地→自治権獲得→マレーシアの一州→独立と10年ほどでめまぐるしい変化を経験した。70年代に入るとシンガポールの政治、経済は安定し、国民生活の変化は大きかったであろうが、政治面では激動の時代ではなくなった。カザフスタンのナザルバエフ大統領は回想録の中でソ連崩壊の時期について、普通の国の50年から100年分の歴史がわずか数年の間に訪れたと表現した。
今ちょうど台湾はそのような激動の時期にある。台湾の今後は誰にも正確には予想しえない。日本の場合、日本が十年後、国名が変わるとか、どこかの国の領土になるとか、分裂するとか、内戦が起こるなどと予想する人はほとんどいないであろう。しかし台湾の場合、十年後、国名が変わっているかもしれないし、変わっていないかもしれない。どこかの国の領土になっているかもしれないし、独立を維持しているかもしれない。戦争に巻き込まれているかもしれないし、平和を保っているかもしれない。全く予測がつかないのである。
ややおおげさな言い方かもしれないが、現在の台湾は日本の明治維新に匹敵する大変革の時期であり、台湾の歴史において極めて重要な時期である。きっと30年か50年後には、21世紀初頭の時期について、台湾史にとって最も重要な激動の時代であったと回顧されるようになるであろう。我々日本人は隣国の国民としてぜひとも台湾に関心を持ち続けなければならない。そしてできることがあれば手助けをしようではないか。

 

   


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