金門・馬祖をどうするか

 

 現在進行中の台湾正名運動推進にあたって、ひとつ問題となるのは、いったいどの範囲が台湾共和国の領土となるかであろう。このようなことをいうと不思議に思う方もいることだろう。現在の台湾政府が実効支配している地域は台湾島と周辺の離島のほか、金門島と馬祖島という二つの島がある。台湾島が中国から150キロも離れているのに対して、金門島と馬祖島は中国本土から最短で2キロ程度しか離れていない。台湾と金門・馬祖は1949年以降、台北を拠点とする政府から支配を受けることによって初めて運命共同体となったが、もともと両地域は歴史的背景が全く異なっている。

 金門島と馬祖島はスペイン、オランダの植民地支配を受けていない。もちろん鄭成功の王朝とも関係が薄い(ただし鄭成功は一時期金門島を反清復明の拠点としたことがある)。1885年に清国政府が台湾省を設置したときももちろん関係ない。金門・馬祖は福建省に属しているからである。何よりも重要なことは両島は日本の植民地支配を受けていないことであろう。したがって、必然的に両島の住民は台湾人よりも親日感情は低いものと思われる。
 国民党政府が台北に移転した後、金門・馬祖両島は国共戦争の最前線となった。だが中国本土から最短で2キロほどしか離れていない金門・馬祖は、中国共産党はその気になれば占領できたに違いない。中国はわざと金門・馬祖を占領せずにそのままにしたと考えるのが妥当である。両島を占領した場合、台湾と150キロもの遠い海峡で隔てられ、完全に別々の国となってしまう(もちろんすでに別々の国となっているのだが中国はそう考えていない)。アメリカは蒋介石に金門・馬祖両島を手放すよう勧告したこともあったが、中国国民党にとっても、両島を失うと中国全土の正当政権という建前が完全に失われてしまうので絶対に手放したくなかった(もちろんすでにそのような建前は失われているが、蒋介石時代はそう考えてはいなかった)。
 このような歴史的背景のほかにも、台湾本島と金門・馬祖は様々な点で異なっている。台湾の漢族はしばしば本省人(台湾人)と外省人(大陸人)という分け方をするが(筆者は台湾は台湾省ではないという立場なので、「省」の字を使うこのような区別の仕方はなるべくしない)、両島の住民はどちらに属するのだろうか。台湾島の住民ではなく、日本の植民地時代も経験していなく、地理的にも中国本土からあまりにも近いことから外省人に分類してよさそうである。しかし金門島の住民は台湾の多数派であるホーロー人と同じである。すると本省人に分類してもよさそうな感じもする。複雑なことに馬祖島の住民は福州人である。台湾の他の地域には福州語を話す人は大陸人でわずかにいるかもしれないが、基本的にほとんどいない。さまざまな要素を考えた場合、両島の住民は台湾人にも大陸人にも属さないと考えてよい。
 ほかにも様々な点で台湾本島と金門・馬祖両島は異なっている。1949年以降、中華民国政府の実行支配地域が事実上台湾のみとなってからも、地方行政単位としての台湾省は実態そのものが存在し続け、省議会も存在した。皮肉なことに90年代に入って民主化されてからは台湾省議会選挙や台湾省長選挙まで行われている(台湾省議会は98年に廃止され、台湾省長の宋楚瑜(現親民党主席)は辞任した)。
基本的に現在でも台湾省という区分は存在している。現在の台湾は大きく4つにわけることができる。中央政府直轄都市の台北市と高雄市、台湾省と福建省である。福建省と聞いて首をかしげる人もいるかもしれない。要するに金門島と馬祖島は福建省に属しており、現在でも台湾には両島よりも上位の福建省政府が存在している。もちろん福建省はまぎれもなく中国の中の一つの省である。よく中国と台湾のことを冷戦の分断国家と見なす人がいるが、私から見れば、分断されたのは中国と台湾ではなく、福建省である。つまり1949年以降も金門・馬祖両島は台湾(もしくは台湾省)とは異なる存在であり続けた。
 両島と台湾との違いはアイデンティティーの違いに非常に強く現れている。つまり両島の住民は台湾意識が非常に低い。2000年の総統選挙で陳水扁に投票した人はわずか1%、2004年の総統選挙でもわずか6%である。とにかく陳水扁は両島で徹底的に支持されていない。彼らが台湾意識を持つのは確かに難しいであろう。地理的にどう考えても台湾島の付属島嶼ではないし、台湾省にも属していない。

 では今後両島の処遇をどのようにすべきであろうか。もちろん民主主義の理念にそって両島の住民の意思を最大限に尊重しなければならない。両島の住民の多くは台湾本島との人的つながりを持ち、台湾に移住する準備ができている人も少なくないと言う。それでも両島の住民が台湾共和国の国民となることを選択するとはやはり考えにくい。どう考えても金門・馬祖両島は歴史的に見て中国の一部分である。しかも地理的に中国から近すぎる。やはり中国に返還するのが妥当な選択肢であろう。
 返還後は香港、マカオと同じく中華人民共和国内の特別行政区としてやっていけばよい。50年間は自治を認めるべきである。両島の住民はほぼ自由に中国本土との間を往来できるが、中国本土の人間が両島に渡るのはある程度制限すべきであろう。半世紀以上運命を共にした台湾との絆も忘れてはならない。台湾が国際社会で承認された後、金門・馬祖特別行政区は台中両国のかけ橋として活躍できるかもしれない。悪化した台中関係の緩和剤として機能できるであろう。

 

  


 

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