国家論2 それでも台湾は中国の一部と言えるのか?

万が一、台湾人の大部分(最低でも人口の6割か7割程度)が一国二制度による統一を望んだ場合、諸外国にも統一に反対する国家はないであろうし、当サイトでこれから述べることももはや全く意味を持たなくなる。だが実際には、一般的に統一派と目されている人でさえも一国二制度には反対などと述べていて、中国と考えが一致する層はごくまれであり、将来的に統一実現の可能性は限りなくゼロに近いといわざるを得ない。であるからして、私がこれから述べることも十分に意味のあることである。

勝てば官軍

中国は台湾は中国の一部分であると言ってはばからない。しかし、世界中に存在する領土問題とはちょっと異なり、中国の主張、論理はあらゆる点で破綻しており、簡単に論破することができる。中国に言わせれば「国共内戦で中国共産党が勝利を収め、中華人民共和国が中国大陸における後継国家となった。」ということになる。勝てば官軍式の論理には一理ある。確かに中国共産党は国共内戦で中国国民党に勝った。だから中国共産党は中国を支配する権利があるといえる。だが中国から150キロ隔てた台湾に逃亡した国民党政権を倒すことはできなかった。当時の中国はよほど海軍力が弱かったようだ。その後、朝鮮戦争をきっかけにアメリカは台湾を間接的に保護するようになり、大躍進運動や文化大革命で国内は混乱を極め、文革終結後は再び台湾問題を重視するようになったが、経済発展が最優先で、なんだかんだで56年経っても台湾を支配下にはいれていない。つまり中国共産党はユーラシア大陸の東北部地域では国民党に対して勝利を収めたが、台湾では負けたのである。実際に1958年には金門島を徹底的に砲撃したが、結局国民党軍に撃退された。金門戦でさえも負けたのだから、まったく手を出せなかった台湾では敗北したと考えるのが妥当である。勝てば官軍式の論理で言えば、中国には台湾を領有する資格はないことになる。いくら中華人民共和国が中国の後継国家となったからといって、台湾までも領有する資格はない、ということで結論が出る。

歴史的背景
台湾は1624年〜1661年オランダ領、1661年〜1683年鄭氏による王朝、1683年〜1895年清国領、1895年〜1945年日本領という歴史を歩んでいる。これについて、清国と中華民国は連続性のない別の国家、中華民国と中華人民共和国も別の国家、だから中国が歴史上台湾を領有したことは一度もないとか、清国は満人による王朝で中国人による王朝ではないから、中国が台湾を領有したことは一度もない、などの意見があるが、私はそうは考えない。私は清、中華民国、中華人民共和国は歴代の中国王朝の後継国家と考えていいと思っている。であるからして私の見方では台湾は確かに1683年から1895年まで中国王朝の支配下に入っていたことになる。
しかしこれをもってして現在の中国が台湾の領有権を主張することには無理がある。日本の場合、近代に入る以前は諸外国の支配下に入ったり、または諸外国にまで領土を広げて自国の支配下に入れたという経験がほとんどなく(強いて言えば沖縄ぐらいか)、非常に歴史がわかりやすく、歴史的に見てどこからどこまでが日本領土であったかは明瞭である。これはなんといっても島国の特徴であろう。だがユーラシア大陸ではさまざまな王朝や民族が入り乱れて、あるときは他国の支配下に入ってそれが自分の国となり、あるときは違う国へと領土を広げてそこが自分の国になるという歴史を繰り返してきた。2001年にタイの女優が「アンコールワットはタイのもの」と発言してカンボジア人から反発を買ったことがある。そのタイ人女優の考え方はタイ国内でも極めて少数意見だろう。だが彼女の発言には、1782年誕生したチャクリー王朝がその後領土を広げ、現在のカンボジア西部にあたる地域を領有した歴史的経緯に基づいての発言である。
中国の場合、その歴史ははるかに複雑だ。中国は4千年の歴史を有しているわけだが、殷の時代は現在の華北、中原あたりしか領土がなかったし、始皇帝の新帝国の領土に、現在の東北地方や四川、雲南、海南あたりは含まれていなかった。南北朝時代は華南地方だけで、北部には鮮卑という異民族王朝があったし、五大十国時代の中国王朝は現在の日本程度の面積しかない。南宋時代も華南地方だけで、北部は金、西には西夏や遼、吐藩などの王朝があった。逆に言えば元王朝は現在の中華人民共和国とモンゴル国全域、シベリア、インド北部、中央アジア全域、イランやイラク、モスクワやポーランドあたりまで領土に入れていた。このように中国の歴史は非常に複雑で、どこからどこまでが歴史的に見て中国の領土なのか全く持ってはっきりしない。強いて言えば華北地方と西北地方ぐらいということになるのだろうが、南北朝時代と宋代は華南地方しか領土に入っていなかったわけで、そう考えると歴史的に見て中国の一部分と言える地域は一坪たりともないことになる。それでもどうしても歴史的背景にこだわって台湾の領有権を主張したければ、同時にモンゴル国全域と、中央アジア諸国全てと、ロシア全域の領有権を主張し、「武力行使も辞さない」強硬姿勢を示さなければならない。台湾の領有権を主張しながらロシア全域の領有権を主張しないのは明らかにダブルスタンダートである。

文化人類学的共通性
私は基本的に人類学的共通性に異論はない。よく独立派の人は台湾人と中国人が根本的に異なっている民族であることを強調する傾向があるが、たしかに台湾人と中国人は文明度、教養度、道徳観念、思考方式などが大きく異なっているが、それでも私は中国人の93%と台湾人の98%は文化人類学的に見て同じ民族だと考えている。私の考えでは、同じ民族であることは同じ国家を形成する理由にならない。これは世界中を見渡してみればよくわかることだ。イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの主要民族はいずれもアングロサクソンである。しかしイギリスがこれらの国々の領有権を主張して「武力行使も辞さない」強い態度に出たりはしない。ほとんどの中南米諸国はラテン系であるが、別々の国家である(ハイチ、ブラジル、ガイアナ、スリナム、仏領ギアナを除く、カリブ海諸国は私もわからない)。東はイラクから西はモロッコまでアラブ諸国は同じ民族でありながら23の異なる国家を形成している。トルコとアゼルバイジャン、ギリシャとキプロス、ルーマニアとモルドバ、ドイツとオーストリアなども同じ民族の国だ。しかもこの4組は、台中両国と同じように、いずれも隣り合っている。これでお分かりいただけただろう。民族が同じであることは同じ国家を形成する理由にはならないのだ。
ちなみに、4年ほど前、台湾人と中国人がことなる民族の遺伝子を持っているという研究結果が発表されて独立派の台湾人が勇気付けられたという話があったが、これはちょっとばかばかしいと思う。私から見れば、民族が同じであるか異なっているかに関係なく、台湾は中国ではないのだ。
そもそも世界中のほとんどの国は多民族国家である。同じ民族が同じ国家を形成しなければならないとしたら、世界中のほとんどの国は分裂と統合を繰り返さなければならない。カナダのケベック州はフランスへ割譲、ベルギーは分割して北部はオランダ領、南部はフランス領、セルビア・モンテネグロのコソボはアルバニアに統合、ロシアのブリヤート共和国はモンゴルに統合、スリランカは二つに分裂し、インドはたくさんの国に分裂しなければならに。もちろんチベットと東トルキスタンも独立しなければならない。インドネシアにいたっては数百の国家に分裂しなければならないなど、本当にめちゃくちゃなことになってしまう。

台湾は独立王朝を築いた歴史がない
鄭氏政権時代の20年があるが、ほとんどなかったと見てよいだろう。しかしこれを持ってして台湾が国家を形成する資格がないとしたら、世界中の半分ぐらいの国家は消滅しなければならないことになる。アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドは独立王朝を築いた歴史がない。シンガポールもない。アフリカ諸国のほとんどは、現在の国境線にそのまま継承されている王朝が存在していたことなどほとんどない。唯一の例外はエチオピアぐらいではないだろうか。現在のアフリカの国境線はエチオピア以外は全てヨーロッパ諸国が勝手に決めたものだ。リベリアはアフリカ諸国でダントツに早く1847年に独立したが、もとからそこに王朝があったわけではない。ほとんど全てのラテンアメリカ諸国、ほとんどの南アジアや中東諸国にもいえる。実際のところ、独立王朝を築いてきて、現在にまでその領土が継承されている国家とは、ヨーロッパ諸国のほかには、アジアでは日本、韓国、モンゴル、ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマー、ブルネイ、ネパール、ブータン、イラン、トルコ、アルメニア、グルジアぐらいではなかろうか。
インドネシア、マレーシア、フィリピン、東ティモール、シンガポール、インド、パキスタン、スリランカ、バングラデシュ、アフガニスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、イラク、クウェート、カタール、オマーン、アラブ首長国連邦、バーレーン、イエメン、シリア、ヨルダン、レバノン、などはヨーロッパが国境線を勝手に決めた国家である。中国の主張どおりだと、上記の国々は独立国家を築く資格がないことになる。
こうして見て来たとおり、かつて清国が200年間台湾を領有したこと、台湾が独立王朝を築いたことがないこと、中国と台湾が同系統の民族であることなどの歴史的背景は、いずれも中国が台湾を領有する根拠としては成り立たないのである。

 

     

 

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