国家論C 台湾中華民国の将来

国家論に関する連載もいよいよ最終回を迎えた。もう一つ避けては通れない問題がある。
台湾はいまだに「中華民国」を名乗っている。これをもってして、台湾は国家ではない、台湾は中国の一部分という主張が良く聞かれる。これをどのように解釈すればいいのだろうか。
確かに現時点で「台湾」という名前の国家は存在していないことになる。そして実際問題として、中華民国を名乗る国家、政府は存在している。中国政府は「中華民国は存在していない」というが、実際に世界26カ国と国交を結んでいる国家が存在しているのだからしょうがない。しかも中華民国=中華人民共和国ではない(これは中国人でも認めるだろう)。そして現状では中華民国の支配領域とはほとんど台湾そのものである。やはり台湾は国家である。
その「中華民国」という名称、及び中国全土が支配領域に入っていることが前提になっている中華民国憲法は、現実からあまりにもかけ離れた虚構である。「中華民国と名乗っているから中国の一部」というのは現実を無視した単なる言葉のゲームに過ぎない。セイロンはスリランカを名乗っているからセイロンは国家ではないということにはならない。
「中華民国」が実体として存在していても、もはや中華民国=中国という理論を成り立たせるのは難しい。国名、憲法は比較的簡単に変更することが可能である。セイロンはスリランカに、ビルマはミャンマーに、ザイールはコンゴにマラヤはマレーシアに、旧ソ連ロシア共和国内のヤクート自治共和国はソ連崩壊後、ロシア連邦内のサハ共和国となった。このように領土を変えずに国名だけ変更した例は世界中にいくらでもある(マラヤはマレーシアに変更した際に旧英領植民地の北ボルネオを併合したので面積が倍増した)。
すでに民主化を達成した台湾は、国名変更が目標となる。いわゆる「台湾正名運動」が一般的に言われている「独立運動」である。それがなかなか進展しないのは、中国による武力恫喝があるからだ。台湾独立運動や正名運動に対する中国の反発はすさまじい。自国の支配下に入っていない外国をまるごと全部自分の領土だとする主張は虚構であると同時に破廉恥極まりないものだが(クウェートに侵攻したときのイラクにそっくりである)、それは置いといて、通常、自国の領域の一部分で独立運動が起こったときに、政府がそれに反対し、硬軟交えておさえようとするのは当然のことだろう。カナダではケベック州の独立運動があり、フランスではコルシカ島の独立運動がある。そのほか、イギリスの北アイルランド、スペインのバスク、インドネシアのアチェー、などなど世界中のあちこちで独立運動が起こっている。これらの国々の政府は当然ながら阻止しようとするであろう。だが台湾の場合、中国の支配下に入っておらず、すでに事実上独立しているのだから、中国が「独立は認めない」というのは、単なる犬の遠吠えに過ぎない。
それにしたって中国政府の態度は異常である。中国人から見れば、台湾が独立を主張することは民族、国家に対する凶悪犯罪であるかのようだ。中国では「台独」という語が誹謗中傷の意味を含んで使われる。そして独立を推進しようとする李登輝前総統や陳水扁総統を永遠の罪人と見なしている。これが例えば過激なテロや武装闘争を行って大量の民間人を殺生したというのならわかる。しかし李登輝や陳水扁はもちろん、この半世紀の間台湾独立運動を展開してきた人たちはわずかな例外を除いて一貫して平和的な活動を行ってきた。逆に言えば、中国のほうが武力で脅迫したり、実際に台湾近海にミサイルをぶち込むなど、極めて暴力的な態度をとっている。私から見れば罪人なのは中国政府のほうだ。すでに民主政治が成熟した段階にまで達した独立国家である台湾を武力を用いてでも併合しようとするその超強圧的な姿勢はアジアの平和の敵である。
常識的に考えて、自国内で独立運動が起きた場合、まともな民主的平和的政府であれば、その地域を優遇する政策をとるはずだ。開発が遅れていればインフラを整備し、貧困地域であれば貧困手当てを出す。国語と違う言語が主流であればその言語を公用語の一部と認め、教育での使用を許可、推進する。またはその地域に自治権を認めるなどなど、できることはいくらでもある。しかし中国の場合、ただひたすら抑圧的な政策をとるだけで、懐柔策みたいなものがほとんどない。これは現実問題として台湾に対する中国の支配が及んでいないという事情がある。しかしそんな言い訳は通用しない。台湾は中国よりもはるかに所得が高く、インフラが整備され、教育水準も高い。13億の巨大市場など、統一しなくても現状のままでも利用できる(実際には中国への投資は中国に富を吸収されるだけで、メリットは少ないのだが)。強いて言えば統一すれば中国からの大量の観光客によって台湾経済に貢献できるかもしれないが、この場合むしろ、香港の36倍の面積を持つ台湾に大量の中国人観光客が押し寄せたら、台湾全土が不法滞在者、犯罪者の溜まり場となる危険性がある。結局のところ、中国は台湾に懐柔策をとることなどできない。ただひたすら嫌がらせをするだけだ。
中国のやり方というのは、約700発のミサイルを向けてさんざん武力脅迫をし、台湾の国際機関への加盟を阻止し、諸外国との要人の相互往来を妨害し、憲法改正や住民投票などの台湾の内政にも干渉するなど、様々な嫌がらせをしたうえで、「統一すればこういった嫌がらせはやめますよ」というものだ。要するに台湾にとっての統一のメリットとは、今までマイナスだったものがプラスマイナスゼロになるということであって、本当にメリットらしいメリットがない。むしろ民主政治、経済、治安の面ではマイナスとなる可能性が極めて高い(香港の政治、経済状況を見ればよくわかる。治安状況はわからないが、返還後の香港の民主主義、経済は明らかに後退している)。
平和的手段をとれば、独立運動そのものは何も悪いことではないはずだ。インドネシアからの独立を目指しているアチェーの人々、カナダからの独立を目指しているケベックの人々、別に私は彼らを支持しているわけではないが、テロリストは別として、別に私は彼らを批判しようとは思わない(私は厳密な意味ではテロ=絶対悪とは思わないのだが、ここでは話がそれるのでやめておく)。日本でもごく一部の沖縄県民が独立運動を展開しているらしい。私は支持はしないが、別に彼らの行いが悪だとは思わない。90年代後半に沖縄選出の社民党議員が「私は太田昌秀知事(当時)を国王とする琉球王国の建国を本気で考えている」と国会で述べたことがあるが、別に彼はいかなる罪にも問われていない。言論は自由であるべきだ。
それと同じように、台湾政府、台湾国民が国名を中華民国から台湾共和国へと変更させることは、民主的平和手段によって行われるのであれば何も悪いことではない。中国人にこれが理解できないのは要するに民主主義の概念や価値が根本的に理解できないからであろう。それからもう一つ、中国人は国内事情について政府に不満を持つことは少なくないが、対外関係について自国政府に不満を持つことはほとんどない(ただし逆の意味で、要するに「政府は日本に対して弱腰だ」という不満を持つことはある)。中国人は外国の事情について根本的に理解していない。現在の中国では海外のニュースも比較的充実しているが、どうも概念的に理解していない。世界のあちこちで民主的な選挙が行われているのに、自分の国では行われていないことを何ら不思議と思わない。選挙たるものが理解できないのだ。
話を戻すが、台湾独立=悪という中国人の観念は狂気とさえ言っていい。台湾人の意思を尊重するという考え方が全く存在していない。このような異常な考え方は、個人の自由な意思というよりは、明らかに上から強制され、洗脳されたものだ。洗脳されたものは、自分が洗脳されていることに気づくことはほとんどない。それが自分の意思だと思い込んでいる。洗脳が解けて初めて自分が洗脳されたことに気づくのである。
そろそろ終わりに近づいてきた。最後の論点として、最終的に台湾問題はどのような解決の道をたどるかについて話をしたい。私は台湾問題が延々とあと50年も100年も続くとは思っていない。だらだらしていれば50年も続くかもしれないが、一年でも早く解決するよう日台両国の政府、国民が団結して対処すべきである。
例えば、台湾政府が国名を中華民国から台湾共和国に変更し、日米台三国の団結によって中国からの武力侵略を回避できたとしよう。台湾への正名は民主化に次ぐ第二の目標達成であるが、この時点で問題が全て解決するわけではない。国連加盟や、諸外国との国交樹立という目標がある。中国政府は武力行使には失敗しても、依然として台湾の存在を認めず、しばらくは台湾は外交的に孤立した状態が続くであろう。すると二つの解決方法が考えられる。一つはアメリカや日本が台湾との国交樹立という英断に踏み切り、その後、諸外国が雪崩をうったように台湾と国交樹立に走るというもの。もうひとつは、中華人民共和国が内部崩壊し、台湾に関する問題が自然消滅するというもの。前者の場合でも、遅かれ早かれ中国の崩壊に結びつくであろう。結局のところ、台湾問題は中国が崩壊しなければ解決しないことになる。中国が台湾共和国の存在を承認して外交関係を樹立し、平和的な関係を歩むというのは考えにくいし、仮にあったとしても、それも中国の崩壊へとつながるだろう。

中国が崩壊しないと台湾問題が解決しないというのは悲観的な意見と感じる方もいるかもしれないが、私はそう思わない。話がそれるので、詳しく述べないが、中国共産党独裁政権の崩壊は時間の問題である。すでに中国は政治、経済、社会、環境など様々な面で全身麻痺の状態であり、外国の多くの学者によって指摘されていることだが、中国自身が自覚症状を起こすのは2008年から2010年頃と思われる。(やはり長くなるので省略するが)、最終的に中国の崩壊は2020年ごろと私は見ている。台湾が国際社会の孤立状態から抜け出せるにはあと15年ほど必要ということになる。だが15年という年月は世界史的観点から見ればそれほど長くはない。台湾問題は、中華人民共和国の崩壊と前後して、台湾共和国が誕生し、国連に加盟し、世界中と国交を結ぶという形で必ずや解決するはずだ。しかしだからといって、中国が崩壊するまで台湾は現状を維持し続ければいいわけではない。中国はありとあらゆる方法で台湾併呑を目論んでおり、台湾は、台湾人アイデンティティーを強化したり、中華民国体制から脱却するための努力を常に怠ってはならないであろう。

 

     


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