良書紹介 『漫画台湾二二八事件』、『台湾二二八の真実―消えた父を探して』

 

 この文章を書いているのは2006年2月25日。多くの台湾人にとって忘れられない日が近づいてきた。台湾を占領した中国国民党による残虐な大量虐殺事件から2月28日で59年を迎える。情けないことに、私がこの事件について知ったのは21世紀のはじめ頃のことである。それでも現在の私は、59年前に起きたこの事件について調べたり、いろいろと考えたりすることができるわけであるが、今だ日本人の多くはこの事件について知らないはずだ。無理もないことなのだろう。第二次世界大戦後の60年間に限定しても、我々人類はあまりにも多くの過ちを犯しすぎたのだ。世界のあちこちで起こった戦争、虐殺によってあまりにも多くの命が奪われてきた。二二八事件というのはそんな我々人類の数多くの過ちの一部なのである。
 それでも、日本人がこの事件について知識と理解を得ることは有益だと思う。隣国の人々がどれほど悲惨な体験をし、どれほどの苦難を味わってきたのか、このサイトを運営する私としても一人でも多くの日本人に知ってもらいたい。
 今年の2月、阮美スさんの2冊の著書が日本で発売された。『漫画台湾二二八事件』と、『台湾二二八の真実―消えた父を探して』である。さらに発売されてから間もなく、阮美スさんが来日され、台湾資料センターやアルカディヤ市ヶ谷などで講演会を行い、多くの聴衆が詰め掛けた。私は2回にわたって阮美スさんの講演を聞く機会に恵まれた。休憩時間には著書が飛ぶように売れていた。この手の講演会で書籍が販売されているのは珍しいことではないが、私は行列ができるほど本が売れているのをほかに見た事がない。私自身も阮美スさんの著書を2冊購入して読んだが、期待を裏切ることなく情報量は豊富で、内容的にも強く心に訴えかけてくるものであった。
 『漫画台湾二二八事件』はその名の通り、漫画でこの事件の真相を紹介したもの。この事件については日本でも書籍やネットである程度の概要を知ることはできるが、多くの場合2月27日から28日にかけての、二二八事件のきっかけとなった出来事について知ることができるのみである。このマンガでは台湾各地で発生した国民党による大虐殺事件が詳述されている。漫画は早く読みこなせるだけでなく、情報量も膨大である。「百聞は一見にしかず」という諺どおり、この漫画からたくさんの情報を得ることができるのである。2時間もあれば読めるはずだから、仕事や学業で多忙な人にもお勧めである。
 もう一冊の『台湾二二八の真実―消えた父を探して』については、主に阮美スさん自身の経験が書かれている。18歳まで日本時代で育った阮美スさんは両親から深く愛され、幸せな家庭生活をおくっていた。父は事業で成功し、芸術方面の趣味も多彩で、友人も多く、楽観的で開放的な性格であったという。一方で母は、大変な美人であったが、どちらかというと地味で清楚な感じの女性であったという。幸せな家庭で育った阮美スさんであったが、中国共産党の「建国神話」や「チベット解放神話」(注1)に見られるようなわざとらしさはない。著書の中では両親がしばしばけんかしていたこと、父の日本旅行に連れて行ってもらえなくて泣いてしまったことなども書かれてある。
 悲劇がおそったのは1947年の3月、阮美スさんは新婚ホヤホヤで幸福な生活がスタートするはずのところへ、突然父阮朝日が警備総司令部の捜査員に連れて行かれてしまった。阮朝日が運営していた新聞社についての聞き取り調査が名目であったが、結局それから二度と父阮朝日は戻ってこなかった。
 阮美スさんは父がいつ、どうして、どのようにして亡くなったのか、そもそも父が生きているのか死んでいるのかさえもわからないままその後の人生を送ることになった。母は悲しみのあまり、父の書籍や洋服などありとあらゆる遺品を焼却した。夫のことを思い出すつらさに耐えられなかったのだ。
 こうして阮美スさんの父を探すための戦いが始まる。父が失踪してから、財産もことごとく失い、とたんに惨めな生活が始まる。それでも阮美スさんは音楽と芸術(ドライフラワー)の道で活躍するようになる。80年代に入り、台湾にも民主化の兆候が訪れると、阮美スさんは本格的に父の行方を捜しはじめ、さらに二二八事件の真相究明のために奔走する。阮美スさんはテレビ、ラジオ、新聞、講演会などを通じて精力的に二二八事件の真相究明を訴える活動をし、さらに膨大な資料を収集して屏東県に阮朝日二二八記念館を開設した。阮美スさんの激動の人生についてはやはり著書で読んでいただくのが良いであろう。
 
 阮美スさんの著書の紹介もそろそろ終わりになるが、最後に私から一つだけ申し上げておきたいことがある。出版というのは、それ自体は確かにビジネスである。とはいえ、出版は単にビジネスではくくれない部分もあるのである。出版とは文化活動でもあり、ジャーナリズムでもあり、社会貢献でもあるのだ。阮美スさんが、そして翻訳出版をしたまどか出版の方々が、単に「この本は売れるぞ」という気持ちだけで出版に至ったわけではないだろう。もちろん本は出版しただけで売れなければ意味がない。売れなければ大量の借金を抱えることになるし、そうなれば次の出版ができなくなってしまう。出版したからにはたくさん売れてたくさんの売り上げを記録したほうがいいに決まっている。本が売れることによってさらに次なら文化活動、社会貢献ができるようになるのである。阮美スさんはさらに二二八事件についての第二段のマンガの出版を希望している。一日も早く第二段のマンガを手にする日を待ち望んで、今日はそろそろキーボードを打つ手を休めたいと思う。

 

台湾資料センターで講演する阮美スさん

 

『漫画台湾二二八事件』 台湾二二八の真実―消えた父を探して』

     

 

 

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